大好きな、杉浦日向子さんの本をご紹介させていただきます。
江戸関係の随筆を中心に、出版年代順に纏めました。出版されている全ての本を載せてはいませんが、
折を見て増やしていくつもりです。画像はすべて自前で拵えた物です。一部、文章も引用しておりますが、
出版社並びに著者の権利を侵害する意図はありません。夭折の通人、杉浦日向子氏への敬愛と追悼の
念を込めたものであることをご理解願います。また、このページをご覧になった方々が、少しでもこれらの
本を手にとる糸口になりましたら、何よりの幸甚と存じます。



〈 単 行 本 〉
表 紙 裏表紙   出版社・初版発行年月日・体裁
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江戸へようこそ (えどへようこそ)
筑摩書房 (ちくまブックス63)
1986(昭和61)年 8月30日
130 × 190mm 234頁 定価 900円
書き下ろしエッセイ
記念すべき江戸随筆第一号。隠居を宣言する前のもので、文章もえらく丁寧です。
前口上とした前書きには杉浦さんの江戸へのスタンスが本人の筆できちんと整理されています。
対談あり、黄表紙ありの楽しい読み物です。対談は、中島梓・高橋克彦・岡本螢のお三方。
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大江戸観光 (おおえどかんこう)
筑摩書房
1987(昭和62)年 5月25日
125 × 195mm 227頁 定価 1200円
「第三文明」「JUNE」他のオムニバス
日向子さん直筆の挿絵が楽しい、お江戸の指南本。へえ〜、なるほどねぇと、思わず唸るお江戸の
事情がわかりやすい文章で紹介されます。この本を読めば、テレビ時代劇で植え付けられた既成
の江戸時代感が変わります。帯の背には 『江戸は愉快なワンダーランド』 のキャッチフレーズが。
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東京イワシ頭 (とうきょういわしあたま)
講談社
1992(平成4)年 5月29日
135 × 195mm 252頁 定価 1400円
「小説現代」’90年1月号〜’91年12月号連載
イワシ頭はシアワセの鍵、東京の横丁に佇むイワシ物件を探してヒナコさんと編集者のポワールさん
が、体当たりで探訪するルポライト。ゲテモノ有り、七福神有り、博打有り、ストリップ有りの、全24編。
お江戸とは少〜し離れて、現代人ヒナコが素で迫るトーキョーのうらおもて。かるーく読めます。
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ぶらり江戸学 (ぶらりえどがく)
マドラ出版 (夜中の学校)
1992(平成4)年 11月5日
120 × 190mm 90頁 定価 980円
’92年5/2・9・16・23日0:40〜1:10放映
1992年5月、4回にわたってテレビ東京で放映された 『夜中の学校』 の講義の模様を書籍に纏めた、
いわば教科書。「江戸前案内」「江戸前の食文化」「江戸前のファッション」「江戸前の色と恋」の四つ
の講義を章立てにした編集は整然としています。小さめサイズで携帯にも便利です。
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呑々草子 (のんのんそうし)
講談社
1994(平成6)年 10月14日
135 × 195mm 357頁 定価 1600円
「小説現代」’92年1月号〜’93年12月号連載
イワシ頭で東京をぶった切った著者と編者の名コンビ、ヒナコとポワールの行き当たりばったり紀行。
のんびりのんきに 『呑々』 と、東京を飛び出して全国をまたにかけた同行二人。お伊勢に始まる珍
道中は、季語そっちのけの吟行という側面も。讃岐の名店 『宮武』 のうどんも出てきますよ〜。
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入浴の女王 (にゅうよくのじょうおう)
講談社
1995(平成7)年 9月20日
135 × 195mm 245頁 定価 1500円
「小説現代」’94年1月号〜’95年3月号連載
ご存知!ヒナコとポワールのヤジキタ道中、第3弾。今回は全国の銭湯めぐりの旅紀行です。
湯屋とその周辺の人々を味噌汁に例え、味わい尽くした著者が献立趣向で紹介する章立は、全国
厳選15箇所の銭湯を網羅、とはいえ半分は東京ですから、やっぱり湯屋はお江戸なのでしょうなぁ。
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杉浦日向子の
江戸塾 
(すぎうらひなこのえどじゅく)
PHP研究所
1997(平成9)年 9月4日
138 × 195mm 219頁 定価 1550円
「小説歴史街道」他のオムニバス
6人のゲストを招いた全編対談形式の本です。ゲストの素朴な疑問に例をあげてはきと答える
日向子さんはまさしく寺子屋の師匠といった按配。図版・注釈があるので読みやすい本です。
ゲストは、宮部みゆき・北方謙三・山崎洋子・田中優子・石川英輔・高橋義夫という面々です。
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ソバ屋で憩う (そばやでいこう)
ビー・エヌ・エヌ
1997(平成9)年 10月31日
122 × 188mm 303頁 定価 1800円
書き下ろし ソ連(ソバ好き連)との共著
ソバ好きというよりは、ソバ屋好きと自称する杉浦師を筆頭に集った同好の士は、浮世のしがらみを
越えた「連」を結成!ソバ屋におとなの憩いの場を求めて各地を探訪し、一冊に編んだ珠玉のガイド。
お蕎麦とお酒を楽しめる厳選の良店72軒。装丁も日向子さんが手がけた渾身の作、第一版!
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お江戸風流さんぽ道 (おえどふうりゅうさんぽみち)
世界文化社
1998(平成10)年 8月1日
135 × 195mm 195頁 定価 1400円
「山手倶楽部」’92年11月〜’97年4月連載
首都高速道路公団広報誌の第1号から第18号に口述筆記で連載されたものを一冊に纏めた東京版
お江戸散策ガイド。「花見」に「花火」に「相撲」に「お湯屋」、「食い物」「買い物」「乗り物」と、百万都市
江戸と、メトロポリス東京を重ね合わせて、軽やかに浮遊するトリップガイド。地図も掲載、便利です。
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大江戸美味草紙 (おおえどむまそうし)
新潮社
1998(平成10)年 10月15日
128 × 187mm 171頁 定価 1400円
「VISA」’94年9月号〜’96年5月号(断続連載)
春夏秋冬、旬の江戸の美味を、江戸川柳を引きながら紹介するグルメ本。 『四大江戸前メニュー』
鮨、蒲焼、蕎麦、天麩羅を筆頭に、初鰹、秋刀魚、鮟鱇と、江戸っ子が好んだ料理の数々を紹介し、
合わせて江戸人たちの食風俗も披露する、含蓄に富んだ一冊です。読めばどれかが喰いたくなる!
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ごくらくちんみ 
新潮社
2004(平成16)年 9月30日
130 × 185mm 221頁 定価 1200円
「小説新潮」’98年6月号〜’04年1月号連載
珍味といわれる肴を紹介しながら、それにまつわる都会暮らしの人々を描いたショートストーリー。
著者初の小説は、超短編仕立て。68品目の珍味に、同じく68編の淡く切ない物語が付いています。
下に紹介する 『4時のオヤツ』 とは姉妹編という趣向になっています。
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4時のオヤツ (よじのおやつ)
新潮社
2004(平成16)年 11月25日
130 × 194mm 200頁 定価 1300円
「東京人」「ソフィア」他のオムニバス
『ごくらくちんみ』 と同じく一品一編の掌編小説、今度は甘味、スウィーツ、お菓子版。宵には早い
午後4時の、何ともけだるいじれったさを醸した短編は、病と生きた作者の人生観が匂い立ちます。
実兄である鈴木雅也さんのきれいな写真入で、ほんのり甘い美本です。そして巻末には・・・
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隠居の日向ぼっこ (いんきょのひなたぼっこ)
新潮社
2005(平成17)年 9月15日
128 × 187mm 170頁 定価 1200円
「朝日新聞」’02年2月2日〜’03年1月31日
著者逝去の報から二ヵ月後に刊行されたエッセイ集。江戸から明治・大正・昭和まで、家庭で使わて
いた庶民の小道具を慈しみつつ語る物故随筆。踏み台、蝿帳、蚊帳、火鉢、湯たんぽ、卓袱台など、
ついこの間まで使われていた物たち、その数50品目。さくっと書いた文章は、短くも歯切れ良し。
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杉浦日向子の
食・道・楽 
(すぎうらひなこのしょくどうらく)
新潮社
2006(平成18)年 7月25日
128 × 187mm 257頁 定価 1200円
「NHKテキスト」「シンラ」他のオムニバス
NHKの定番番組「3分クッキング」、「食彩浪漫」、「今日の料理」のテキストに寄せたエッセイを纏めた
短編物。食の章 「ゴチマンマ!」 道の章 「酒器十二ヶ月」 楽の章 「今日の不健康」 の三本立て。
「酒器十二ヶ月」には、著者が愛用した器が2客ずつ、写真つきで紹介されています。
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うつくしく、やさしく、おろかなり
―私の惚れた「江戸」 
(わたしのほれた「えど」)
筑摩書房
2006(平成18)年 8月5日
138 × 195mm 181頁 定価 1400円
「ガロ」「別冊サライ」他のオムニバス
 
杉浦日向子を世に送り出した 『筑摩書房』 が 『最後の恋文』 と題して上梓した出版社渾身の一冊。
ガロや、別冊サライなどの単発エッセイから、学会誌、社内報などの小冊子に寄稿された随筆まで、
小さな文章を細やかに集めて編んだその根気には脱帽です。編集者の松田哲夫氏の並々ならぬ
気合が伝わってくる本です。小粋な浅緑色の縞の地に、著者自筆の仇っぽい美人画を配した装丁
は、路上観察学会の盟友、南伸坊氏。著者が最後に江戸に送る恋文であるとともに、筑摩書房が
『作家・杉浦日向子』 に送る最後のラブコールでもあります。この本が事実上絶筆でしょう。 合掌。
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〈 文庫オリジナル 〉
表紙 裏表紙 出版社・初版発行年月日・体裁
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江戸アルキ帖 (えどあるきちょう)
新潮社 (新潮文庫)
1989(平成元)年 4月25日
105 × 150mm 258頁 定価 640円
「サンデー毎日」’85年7/28号〜’88年1/31号連載
扉に、「この本は江戸の町が私達の町のすぐ隣に有る気で歩き或る記にしたものです。ヒナコ」 と
あるように、時間旅行免許を持っているヒナコさんが毎週日曜日に江戸の町へ旅をするという趣向
のイラスト入り絵日記です。ヒナコさんと一緒に感性のタイムトリップをたのしみませう。
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一日江戸人 (いちにちえどじん)
小学館 (小学館文庫)
1998(平成10)年 4月1日
105 × 150mm 283頁 定価 552円
「ビックコミックオリジナル」’86年〜’88年連載
オリジナルキャラクター、タマサカ先生とメバルちゃんがナビゲートするお江戸風俗指南本。
入門編・初級編・中級編・上級編と、読み進むほどに江戸人の姿が浮き彫りになり、仕舞いまで読む
とすっかりあなたも江戸っ子に。 渋谷あたりの若いバカップルを見たらついついこんな台詞が口を
ついて出るでしょう。 「しるまっから繁りゃぁがれ畜類め、脳天にくらわすぞ、べらぼうめぇ。」
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ソバ屋で憩う (そばやでいこう)
−悦楽の名店ガイド101− 
新潮社 (新潮文庫)
1999(平成11)年 11月1日
105 × 150mm 410頁 定価 590円
文庫版書下ろし
’97年に上梓された異色のお蕎麦屋ガイド 『ソバ屋で憩う』 の増補改訂完全リニューアル版。
その軒数も72店舗から101店舗に増えて、各店舗の情報も細やかに改訂。藪・砂場・更科・一茶庵と
いった大看板系列から、研究熱心な個人店まで、憩えるお蕎麦屋さんが列挙されています。
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もっとソバ屋で憩う (もっとそばやでいこう)
−きっと満足123店− 
新潮社 (新潮文庫)
2002(平成14)年 11月1日
105 × 150mm 425頁 定価 629円
文庫版書下ろし
 
’99年に増補改訂された文庫版をさらに増補改訂した 『そばいこ』 第3弾。いよいよ店舗は123店に
増強!さらに一目で分かる「憩い度マーク」が付いて見易さもアップ。しかしながら、時間とともに
情報は色あせるもの・・・先々を考えるといずれこの本も正確さを欠くことは必至。さらなる改訂版を
新潮社は出してくれるでしょうか?日向子氏無き今、ソ連の皆々様には大いに期待したいところ。
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ウェブコンテンツで読むエッセイ・コラム
 
酒と肴のおいしい話  001 『ほやのしおから』 築地 中島水産 おさかなぶっくONLINE
酒と肴のおいしい話  002 『ふくかわ』
酒と肴のおいしい話  003 『さけほね』
酒と肴のおいしい話  004 『鮎の子うるか』
 
ぐるっと東京2003年秋号  『東京自慢』 東京交通局 ぐるっと東京バックナンバー
 
オンライン講演会  『共同体としての『江戸市』の復活を』 国土交通省 オンライン講演会
 
対 談  『バーチャル都市・江戸のサーファーたち(1)』 千葉県企業庁 幕張アーバニスト
対 談  『バーチャル都市・江戸のサーファーたち(2)』







《 杉浦日向子さん 略歴 》
 
1958(昭和33)年 11月30日 東京生まれ 本名 鈴木順子 漫画家 江戸風俗研究家
1980(昭和55)年 22歳で漫画家デビュウ 『通言室之梅』
1984(昭和59)年 日本漫画家協会賞 『合奏』
1988(昭和63)年 文芸春秋漫画賞 『風流江戸雀』
1993(平成5)年 隠居 以降、江戸風俗研究家として活動
1995(平成7)年〜
2004(平成16)年
NHK『コメディーお江戸でござる』に出演
『杉浦日向子のおもしろ江戸ばなし』を担当
2005(平成17)年 7月22日 千葉県柏市内の病院にて、下咽頭ガンのため逝去 46歳




杉浦日向子さんの文章を初めて目にしたのは、1980年ごろだったと思います。そのころハタチでこぼこだった私
は、ビックコミックオリジナルを購読しており、漫画の合間に読物として挟み込まれる形で、江戸の風俗を書いた
杉浦さんのエッセイをあまり気に留めていませんでした。今思えば、上に紹介した 『一日江戸人』 こそ、まさしく
それであったのでしょう。その頃は 『浮浪雲』 や 『釣りバカ日誌』 などの連載漫画に埋もれた見開き1・2頁の随
筆を軽く流す程度にしか読んでいませんでしたが、少々異色な絵と文に、えもいわれぬ魅力を感じておりました。
その後、NHK『お江戸でござる』に出演して軽妙に江戸時代を解説する杉浦さんその人のお姿をお見かけしたと
きには、思いのほか細身で和服の似合う、自分とそう年の違わない女性であったことに、「えぇ?この人が、あの
文章を書いた人なの?」と、驚きました。そして驚きとともに、好意と敬意を覚えたものです。

それ以来、毎週 『杉浦日向子のおもしろ江戸ばなし』 のコーナーを楽しみに拝見しました。ある日、出演者の
ひとりびとりにお休みの過ごし方を聞く場面があったのですが、一通り出演者が読書だとか、映画を見るとか
休日の過ごし方を披露したあとに杉浦さんが、「私は、お蕎麦屋さんで、昼間っから、ゆっくりとお酒を楽しんで、
おそばをいただくのが何よりの楽しみです。」と少々照れくさそうに仰っていたのを拝見して、まあ何と乙な方な
んだろうと感じたものでした。思えばそのころから、杉浦さんへの憧れの念が強まったように思います。
本の蒐集に血道をあげ始めたのは、’98年あたりからでしたか、読めば読むほどその博識と、瀟洒な文体に
傾倒し、古本屋で初版の本を探すのが一つの楽しみにもなりました。

2005(平成17)年、下咽頭ガンのため46歳で逝去され、その訃報には大きな衝撃を受けました。
日本人の平均寿命が80年という現代にあって、江戸を愛した通人の寿命は江戸時代の人の如く短かったことに
皮肉な愛惜を感じずにはいられません。生きている以上、死に向かう老化の日々こそが人生の道程と解る歳に
なり、その不条理を紛らしてあまりある 『生きがい』 を見つけることこそが、人生を楽しむ秘訣と知りながら、中々
それを見つけることは容易ではありません。ゆえに人は先人の知恵に学び、古きを温めて先達の哲学に拠るの
ですが、ともすれば儒教的になって堅苦しい生き方を選んでしまい、いきおい宗教色を纏い、人を寄せ付けない
雰囲気に陥りがちです。そこを杉浦さんは、その生き甲斐発見方法論をそのまま 『江戸後期の町人の暮らし』
に投影し、肯定的に現代生活に取り入れることで、20世紀から21世紀を軽やかに生きた達人だったと思います。

私生活では、結婚そして離婚を経験し、血液の免疫の難病とともに生き、晩年は下咽頭ガンと戦い、卑屈になる
ことなく、楽ではない闘病生活を 『隠居』 といって洒落ながら隠蔽していたところなども、いかにも粋な江戸っ子
らしい心意気を感じます。江戸に範を求めつつ、短いながらも天寿を全うした杉浦日向子さんは、上記の著書の
至る所に 『日向子流江戸人の解釈』 をちりばめて、くよくよしない生き方のお手本を示唆して下さっています。
まるで隅田川の川風のように飄々とその生き方を実践してみせてくださった日向子さんの生きざまにおおいに
学び、この、生きにくく死ににくい現代を、がんばらずに、ほどほど永らえてみたいものです。

お仕舞いに、このページをご覧下さった方々に、機会がありましたら是非とも杉浦さんの本をご一読いただくべく、
『杉浦日向子の食・道・楽』より、いかにも日向子さんらしい一文を引用させていただき、幕といたしましょう。




















2006(平成18)年 9月 6日 製作  同14日 公開